大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

鳥取地方裁判所 昭和23年(行)1号 判決

原告 石田すみ子

被告 鳥取県知事

被告補助参加人 河西仲蔵

一、主  文

被告が別紙目録記載一の農地につき昭和二十二年十月十日同目録記載二の農地につき昭和二十三年十一月十日被告補助参加人河西仲藏に対し売渡通知書を発行してなした各農地売渡処分はこれを取消す。

訴訟費用中原告と被告との間に生じた分は被告の負担とし原告と補助参加人との間に生じた分は補助参加人の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求の原因として補助参加人河西仲藏は昭和二十二年二月十七日自作農創設特別措置法(以下自創法と呼ぶことにする)に基き別紙目録記載の各農地につき賃借権を有すると称し鳥取県気高郡美穗村農地委員会に対して買受の申込をしたので被告は別紙目録記載一の農地については同年七月二日同目録記載二の農地については昭和二十三年七月二日各同法第三条第一項に基き買收処分をし次で右一の農地については昭和二十二年十月十日右二の農地については昭和二十三年十一月十日各同法第十六条第一項同法施行令第十七条第一項第一号に基き補助参加人に対し売渡通知書を発して売渡処分をし原告は右二の農地についての売渡処分を昭和二十四年一月二十一日知つた。

しかし右各売渡処分は次の(一)乃至(三)の理由により違法であるから取消さるべきである、即ち

(一)  別紙目録記載の各農地は昭和十八年以來原告が右農地の賃借小作人訴外亡河西岩松と同一世帶にあつて同人と協力してこれを耕作していたところ昭和二十一年十月二日岩松は死亡したがその前日同人はかねての意図に基き原告をして耕作せしめる目的で原告に右農地の耕作権(賃借権)を贈与し即時農地の引渡を了したのである、然るに補助参加人は岩松の法定推定家督相続人であつたが岩松の死亡により家督相続をした後原告の賃借権を奪わんがため故ら事実を曲げ自分が岩松の賃借権を相続取得したと詐称して前述の通り村農地委員会に買受の申込をしたもので本件売渡処分はかような不法な買受申込に基いてなされたものであるから違法である。

(二)  仮に右買受の申込が補助参加人の惡意に出たものでなく從つて不法ではなかつたとしても本件売渡処分の根拠となつた自創法施行令第十七条第一項第一号にいわゆる小作農とは賃借権その他適法な使用権に基き耕作する者を指すものと解すべきところ補助参加人は賃借権を相続取得しなかつたこと前述の通りで同人は賃借権その他適法な使用権を有する者ではなく從つて右規定にいわゆる買收の時期における小作農とはいえない。

(三)  しかも岩松死亡以來原告において本件各農地を單独に耕作していたところ補助参加人は原告の賃借権を否認するので原告は昭和二十二年十一月十一日補助参加人を相手方とし本件各農地に立入ることを禁止する仮処分命令を得てこれを耕作していたが同月二十九日補助参加人は仮処分取消の判決を得その判決の効力として爾來本件農地を耕作するに至つたものでこの耕作は判決の効力による仮定的耕作であつて眞の耕作ではないから補助参加人は前記規定にいわゆる買收の時期において本件農地につき耕作の業務を営む者に該当しない。

以上何れにするも本件農地売渡処分は失当であるところ原告は買收時期において本件各農地につき耕作の業務を営む小作農でしかも農業に精進する見込もあり村農地委員会に対し買受の申込をしているから自己に売渡を受け得る期待を有するもので從つて補助参加人に対する本件売渡処分を取消すにつき利益を有するものである、よつてこれが取消を求めるため本訴請求に及んだ旨述べ、

被告の抗弁に対し被告主張のように原告が賃借権の讓受につき地方長官の認可又は許可村長の認可村農地委員会の承認を受けていない事実賃借権移転につき登記を完了していない事実はこれを認めるがその余の抗弁事実を否認すると答え、

被告抗弁(イ)に対する再抗弁として原告は前述の通り耕作の目的で賃借権の贈与を受けたものであるから昭和二十年十二月二十八日法律第六十四号農地調整法改正法律第五条の適用はない(同法第六条第三号)從つて被告抗弁(イ)は失当である旨述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張の通り補助参加人が買受申込をしたので原告主張の日その主張の規定に基いて買收処分及び売渡処分のなされた事実訴外亡河西岩松が本件農地の賃借小作人であつた事実原告が岩松と同一世帶にあつた事実補助参加人が岩松の法定推定家督相続人であつたが原告主張の日岩松の死亡により家督相続をした事実原告主張のような立入禁止の仮処分命令その取消判決のなされた事実はこれを認めるが原告がその主張の日に売渡処分を知つた事実は不知その余の原告主張事実を否認すると答え、

抗弁として(イ)仮に原告がその主張のように岩松から賃借権の贈与を受けたとしても賃借権移転につき地方長官(現在の名称によれば県知事)又は村長の認可を受けていないから昭和二十年十二月二十八日法律第六十四号農地調整法改正法律第五条によりその贈与は無効である、(ロ)仮に原告が耕作の目的で賃借権の贈与を受けたものであるとしてもその登記及び引渡を完了していないから昭和二十一年十月二十一日法律第四十二号農地調整法改正法律附則第二項の適用を見るべくしかも同法第四条所定の地方長官の許可又は村農地委員会の承認を受けていないからその贈与は無効である、從つて賃借権贈与の有効であることを前提とし本件売渡処分を違法であるとする原告の主張(一)(二)は失当であると述べ原告の再抗弁事実を否認した。(立証省略)

補助参加代理人は原告の請求原因事実に対し被告訴訟代理人と同旨の答弁をした。(立証省略)

三、理  由

補助参加人河西仲藏が昭和二十二年二月十七日自創法に基き別紙目録記載の各農地につき賃借権を有すると主張して鳥取県気高郡美穗村農地委員会に対し買受の申込をしたので被告が別紙目録記載一の農地については同年七月二日同目録記載二の農地については昭和二十三年七月二日各同法第三条第一項に基き買收処分をし次で右一の農地については昭和二十二年十月十日右二の農地については昭和二十三年十一月十日各同法第十六条第一項同法施行令第十七条第一項第一号に基き補助参加人に対し売渡通知書を発して売渡処分をした事実訴外亡河西岩松が本件各農地の賃借小作人であつた事実原告が岩松と同一世帶にあつた事実補助参加人が岩松の法定推定家督相続人であつたが昭和二十一年十月二日岩松の死亡により家督相続をした事実原告主張のような立入禁止の仮処分命令その取消の判決のあつた事実は当事者間に爭いのないところである。

よつて右売渡処分が違法であるかどうかにつき審究する。

(一)  原告は補助参加人が自己に耕作権がないのにかかわらず故ら自己に耕作権があるものと僞り右農地買受の申込をしたものでかかる不法の買受申込に基いてなされた前示売渡処分は違法である旨主張するからこの点につき按ずるに補助参加人が買受申込をするに当り故意に村農地委員会を欺いたとの事実についてはこれを認めるに足る証拠がないだけでなく仮に右のような事実があるにしても右申込が自創法第十七条同法施行規則第八条所定の方式に適合している限り買受申込としては有効であつて村農地委員会又は被告においてこれを有効な買受申込として取扱い爾後の手続を進めたことに形式上何等の違法はないから原告の右主張はこれを排斥する。

(二)  次で原告は補助参加人は賃借権を相続取得しなかつたから賃借権者ではなく買收の時期における小作農とはいえないのにかかわらず同人を自創法施行令第十七条第一項第一号にいわゆる小作農としてなした本件売渡処分は違法である旨主張するからこの点につき按ずるに同法条にいわゆる小作農とは賃借権その他適法な使用権に基き耕作の業務を営む者を指すものと解すべきであるところ(自創法第二条第二項第五項)成立に爭いのない甲第一号証の一同第三号証の一同第四乃至第七号証を綜合すれば原告は幼少の頃その母に死別し補助参加人の先代河西岩松に引取られて成長し別紙目録記載の田地を含む数段の田地につき岩松を援けて耕作していたが一方岩松が補助参加人の妻と意見が合わぬため補助参加人及びその妻は岩松等と別居して暮しそのため岩松は自分の死後は原告に同家を継がせるつもりでいる中昭和二十一年九月病にかかりその後死期の迫るのを知るや死亡の前日である同年十月一日原告の將來を案じ同人に財産を分けるため原告及び補助参加人の外親族等を病床に呼び寄せ財産分配につき詳細な指示をなし原告に対しては自分の佛祭をすることを頼むと共に耕作をさす目的で別紙目録記載の田地の耕作権その他を贈與すると共にその田地の支配を移転する旨の合意をした事実を認めることができ右認定を動かすに足る何等の証左がないから原告は右合意と同時に右田地の賃借権を取得し且つその引渡を受けたものというべきである。被告は右賃借権の讓受は地方長官又は村長の認可を受けていないから昭和二十年十二月二十八日法律第六十四号農地調整法改正法律第五条により無効である旨抗爭し且つその認可を受けていない事実は原告の認めるところであるけれども原告が耕作の目的で右賃借権の贈與を受けたこと前認定の通りであるから同法第六条第三号により前記第五条の規定の適用は排除されることとなるべく從つて被告の抗弁(イ)は失当である。次で被告は登記及び引渡を完了しておらずしかも地方長官の許可又は村農地委員会の承認がないから昭和二十一年十月二十一日法律第四十二号農地調整法改正法律附則第二項同法第四条により賃借権贈與は無効である旨抗爭するけれども同附則第二項の規定によれば同法律施行(昭和二十一年十一月二十二日)以前に從前の第六条第三号の規定により從前の第五条の規定による認可を受けないでした農地に関する契約で当該権利の設定又は移転に関する登記又は当該農地の引渡の何れか一方が完了しているときは同法の適用によらず昭和二十年法律第六十四号農地調整法改正法律の適用によるべきものと解せられるところ右田地の引渡が完了している事実は前認定の通りであるから前記昭和二十一年法律第四十二号の適用はなく從つて右賃借権移転については地方長官の許可又は農地委員会の承認は不要である。從つて被告の抗弁(ロ)も亦採用ができない。そうすると前認定の賃借権贈與の日以後である昭和二十一年十月二日に補助参加人が岩松の家督を相続したことは前記の通りであるから補助参加人は本件農地の賃借権を相続取得するに由なきものというべく補助参加人が相続以外の原因により何らかの使用権を取得したことの主張立証のない本件においては買收時期において補助参加人は小作農ではなかつたといわねばならない。よつて本件売渡処分は補助参加人を自創法施行令第十七条第一項第一号にいわゆる小作農であると誤認し同条項に基き同人に売渡処分をしたものであるから爾余の点の判断をまつまでもなく既にこの点において違法でありこれを取消すべきである。

次で原告が本件売渡処分取消請求をするにつき利益を有するかどうかにつき審究するに原告は次に述べる理由により自創法施行令第十七条第一項第一号にいわゆる買收時期における耕作の業務を営む小作農として第一順位で売渡を受ける資格を有する者と認めることができる。即ち自創法第十六条第一項の法意を檢討するときは右規定において耕作の業務を営む小作農を売渡の相手方とした趣旨は農地に対し耕作すべき正当な権利を有していてもその権利の上に眠り耕作の業務を抛擲している者は売渡の相手方として不適当であるとしてこれを売渡の相手方から除外するにあるのであるから農地の賃借権者でありながら從來継続していた耕作を一時的の故障によりたまたま買收時期において中止している者はなお同条及び前記施行令の規定にいわゆる買收時期において耕作の業務を営む小作農と称するに妨げないものと解すべきであるところ昭和二十一年の收穫期に別紙目録記載の田地に対する耕作を補助参加人が妨害しようとしたため原告が同年十一月十一日鳥取地方裁判所において補助参加人を相手方とし右田地に立入ることの禁止の仮処分命令を得た事実同月二十九日右仮処分が判決により取消された事実は当裁判所に顯著であり右事実に前掲各証拠を綜合すれば原告は河西岩松の死亡以前から岩松を援けて右田地を耕作していたが岩松死亡後もなお耕作を続ける中これを補助参加人において妨害しようとしたため前記立入禁止の仮処分命令を得たけれどもその後右仮処分が判決により取消されたため補助参加人において原告に代り右田地の耕作を初め原告においては耕作継続を切望しつつもこれを中止するのやむなき破目におちいりその後もなお耕作の希望を捨てていない事実を窺うに足る。而して農地立入禁止の仮処分を取消す旨の判決のなされた結果仮処分取消申立人が仮処分申請人に代つて目的たる農地に立入り耕作することは該判決の当然の効果ではなく仮処分なかりし以前の放任的状態における事実上の結果であるといわねばならないけれどもこれ又本案判決確定に至るまでの一時的の状態であるというを妨げないのであつてその一時的状態である点においては農地立入禁止の仮処分命令のなされた結果仮処分申請人においてなす仮定的耕作と異らないものである。而して原告は仮処分命令及びその取消判決のなされない以前からの耕作人であつたのであるから原告は一時的の故障により耕作ができなくなつたものとして耕作の業務を営む者として取扱われなければならない。しかも本件農地の買收時期が少くとも第一次の自創法施行の日たる昭和二十一年十二月二十八日以後であることは明らかであつてそれ以前である同年十月一日原告が賃借権を取得した事実は前認定の通りであるから原告は自創法及び同法施行令にいわゆる買收時期において耕作の業務を営む小作農というに妨げないものというべきである。而して原告が農業に精進する見込があるかどうかを考えてみると成立に爭いのない甲第一号証の一同第五号証同第七号証を綜合すれば原告は満二十才になるが幼くして祖父である農業河西岩松夫婦に養育せられ祖母は病身であつたため農業の手伝に忙しいために十四、五才頃以後は学校にも欠席勝ちで昭和二十一年三月小学校高等科二年を卒業して以來は專ら農耕に從事していた事実前記岩松の病死に際し同人から同家の後継ぎと祖先の祭祀とを依頼せられ農地等の分与を受けたが分与を受けた農地は約四段に達し且つもと岩松の所有していた親牛も原告の所有として入手し得る見込があり原告は將來農を生業とし亡岩松やその祖先を祭つて行こうと考えている事実を認めるに十分でかかる事情の下においては原告は農業に精進する見込ある者と認めるを相当とするから同法施行令第十七号第一項第一号により原告は本件各農地につき第一順位で売渡を受ける資格を有する者といわねばならぬ。そうすると原告が同法第十七条所定の買受申込をしたかどうかの点は審究するまでもなく原告は本件売渡処分取消請求をするにつき利益を有するものというべきである。蓋し仮に原告が適法な買受申込をしていなかつたとしても(本件においては原告が適法な買受申込をしたことを認めるに足る証拠がない)原告は現在に至るまで引続き耕作するつもりでいる事実は前認定の通りであるから同法施行令第十八条にいわゆる「耕作をしないつもりで買受の申込をしないとき」には該当しない。從つて第二順位以下の買受人を規定する同条の適用はないから被告は本件各農地につき原告以外の者に対し同条による売渡処分をする必要がなく結局国有の売れ残り地として処理し得べく從つて原告は引続きこれを永く国から賃借し耕作し得る余地があるし又本件売渡処分取消の後被告が新たに買受申込期間を定めてその期間内に原告に買受申込をさす手続をとれば原告は新たに買受申込をして本件農地の売渡を受け得る結果になると解すべきであるのに本件農地売渡処分の結果原告の賃借権は消滅し且つ敍上のような原告の期待は一切失われるに至るからである。

よつて原告の本訴請求はこれを正当として認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十四条を適用し主文の通り判決した。

(裁判官 大賀遼作 石見勝四 柚木淳)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!